長年勤めてきた会社を春に退職し、新たなセカンドライフへの期待を抱きながら、この最後の秋を迎えている方々も多いことでしょう。しかし、退職後の資金計画についてはどう考えていますか?
・老後2000万円問題
・少子高齢化による年金制度の不安定さ
これらは日本が直面している深刻な構造的問題であり、さらに今まで安定して得ていた収入が途絶えることに対する不安を抱える方も少なくないのが現状です。このような不安を利用して金融商品を売り込むセールスマンが存在することも忘れてはいけません。
誰もが不安を感じると、時には冷静さを失い、思い切った行動を取ってしまうこともあります。だからこそ、大切な老後資金をしっかりと守るために、銀行の営業担当者から提案される商品についての知識をしっかりと身につけ、冷静で賢明な判断を下すよう心がけることが極めて重要です。
銀行マンが勧める高金利商品について
リターンが高い商品には、必ず何らかのリスクが潜んでいるという視点を持つことが非常に重要です。一般的に、金融の世界ではリスクとリターンは比例するため、高いリターンを求めるのであれば、それに見合った高いリスクを受け入れなければならないのです。今回は、仕組み預金について詳細に解説していきます。
仕組み預金の特徴
仕組み預金の最大の魅力は、通常の定期預金の5倍から10倍の高金利で運用できる点ですが、その一方で伴うリスクについても十分に理解しておく必要があります。
銀行の営業担当者は、高金利を強調して営業を行いますが、その魅力的な部分だけを信じて、退職金や大切な資金を一度に運用してしまうと、取り返しのつかない事態に陥る可能性があるため、十分な注意が求められます。
一般的に、仕組み預金には以下のようなリスクが存在します。
①引き出しを制限するタイプ
②元金割れの可能性があるタイプ
この2つのタイプについて、具体的に詳しく見ていきましょう。
引き出しを制限するタイプ
通常、預金はいつでも引き出せるものですが、このタイプの仕組み預金は、銀行側に満期の決定権があることが特徴です。つまり、自分が必要なタイミングでお金を引き出せない可能性があるのです。
通常の定期預金よりも金利は魅力的ですが、以下の点に注意が必要です。
①引き出し可能な時期が不明である
②運用面で不利な状況に陥る可能性がある
引き出し可能な時期が不明である
例えば、退職金1500万円を老後の資産形成のために仕組み預金で運用し始めたと仮定しましょう。満期は最短で1年から最大10年で、銀行側がその決定権を持っています。
運用が始まってから2年が経過しましたが、銀行はすでに満期の延長を決定しており、運用は3年目に突入しています。そんな時、息子から焦った声で連絡が入ります。交通事故を起こしてしまい、700万円がどうしても必要とのことです。
この場合、緊急に引き出さなければならない事情が発生しても、契約上、銀行から運用中のお金を引き出すことができません。仮に契約を破棄して元金を引き出すことが銀行と調整できた場合でも、契約不履行の手数料が発生し、結果として元本割れを招く可能性もあるのです。
そのため、有事の際に必要な資金について考慮し、銀行側が提示する最長の運用期間でも余裕を持った資金配分を計画してから利用することが重要です。
運用面で不利な局面に陥る可能性がある
銀行が満期日の決定権を持っているということは、契約時に設定された利率と将来的な利率を比較し、銀行が有利な選択をすることができるということを意味します。
例えば、契約時に0.3%の固定利率で運用することが決まった場合、3年後に利率が0.5%に上昇したとします。この場合、銀行は当初の利率をそのまま維持することができるのです。その結果、仕組み預金を利用しなかった場合に本来得られたであろう利率の差0.5%-0.3%=0.2%の損失を被ることになります。
つまり、市場の金利状況に応じて有利な投資判断ができなくなってしまうため、その点を念頭に置いて契約を進めることが求められます。
元金割れの可能性を含むタイプ
「預金は絶対に安全で、元本割れはしない」と誤解している人をよく見かけますが、実際に全ての預金が元本保証されているわけではありません。
仕組み預金の中には、元本割れの可能性がある商品も存在します。これは、銀行が円で預かった資産を外貨で運用するもので、為替リスクを伴うため、高金利が適用されます。しかし、契約時に定められたレートと満期時のレートを比較した際、換金すると不利な通貨で銀行から元金が返却される可能性があるのです。
この点は少々複雑ですが、具体的に考えてみましょう。
例えば、契約時のレートが$1=150円、満期時のレートが$1=100円になった場合、ドルの価値が円に対して下がっています。この場合、満期時に元本として受け取れるのは、不利な通貨であるドルです。
以下の点に注意が必要です。
①元本割れのリスク(外国通貨での元本受け取りの場合)
②為替差益を享受できないリスク(自国通貨での元本受け取りの場合)
外国通貨で元金が返却された場合
不利な通貨で返却される場合、外国通貨で返却された際に、自国の通貨にすぐ換金すると必ず為替差損が生じ、元本割れが発生します。
例えば、契約時のレートが$1=150円、満期時のレートが$1=100円の場合、契約時に150円を預けたとします。この場合、満期時に返却されるのは1ドルです。
この1ドルを満期時にすぐに円に換えると、100円になります。つまり、150円預けて100円を受け取る形となり、50円の損失が生じてしまうのです。
自国通貨で元金が返却された場合
先ほどの例と同様の考え方で、別のシナリオを考えてみましょう。
例えば、契約時のレートが$1=150円、満期時のレートが$1=200円の場合、契約時に150円を預けます。
この際、満期時に返却されるのは150円です。この場合、元本割れなしで好金利での運用が実現できた形になります。
しかし、ここで不思議な点に気づくかもしれません。ドルと円のレートが変化しているのに、受け取る元本の額は変わらないということです。
実は、これは銀行側が利益を得る仕組みを示しています。銀行は円とドルの交換を通じて運用を行い、150円で1ドルを購入し、200円で1ドルを売ることで50円(運用益33%)の為替差益を得ているのです。
これは極端な例ですが、このような場合に自分で外貨の運用を行えば、仕組み預金の金利よりもはるかに高い運用益を得ることができた可能性があります。
仕組み預金の金利は、普通預金や定期預金と比較して高いものの、運用期間が短いことが一般的であり、実質的な運用益は数%程度となることが多いです。例えば、仕組み預金金利が8%で1か月満期の場合、実際の運用益は8%÷12か月=0.67%となります。
銀行側も収益を確保するために様々な計算を行い商品化しているため、この金利を支払ってでも為替の変動で利益を得ることができ、高金利に設定することが可能なのです。
まとめ(仕組み預金の理解)
仕組み預金について、少しでも理解が深まったでしょうか。以下に重要なポイントをまとめましたので、実際に購入する際には本当に必要な時にのみ行うように心がけましょう。
①仕組み預金には2つのタイプが存在する
(1)引き出しを制約されるタイプ
(2)元金割れの可能性があるタイプ
②高金利ではあるが、それに伴うリスクが存在する
◎自由に引き出せないリスク
◎元本割れのリスク
◎より有利な運用ができないリスク
最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。
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