有名だけど買ってはいけないジャパニーズウイスキー

日本産のウイスキーには、実に美味しい銘柄が数多く存在しています。

日本人の繊細な味覚に合わせて丁寧に作られたジャパニーズウイスキーは、その背景には豊かな歴史や製造者たちの情熱、そして不断の努力が凝縮されています。このようなウイスキーが、海外でも高い人気を誇っているということをご存じの方は多いのではないでしょうか?

しかし、素晴らしいジャパニーズウイスキーの中には、バーテンダーの目線から見ると、あまり推奨できない種類も存在します。今回は特に有名メーカーが手がけるジャパニーズウイスキーについて詳しくお話ししたいと思います。

日本のウイスキーの歴史

まずは、日本のウイスキー文化の歴史を振り返ってみましょう。

日本のウイスキーの起源は1900年代に遡りますが、特にサントリーの創業者である竹鶴政孝がスコットランドでウイスキーの製法を学んだことが大きな転機となりました。

このことから、日本のウイスキーがスコッチスタイルに寄せられている理由が見て取れますが、当時は国内での需要はそれほど高くありませんでした。

その後、1950年代に入ると、日本のウイスキーが一般の人々に広まり始めることになります。

1923年から海外向けにウイスキーを製造していた山崎蒸溜所も、1950年にサントリーオールドの販売を開始しました。

この時期は、日本国内でウイスキーの消費が本格的に始まった歴史的な幕開けの瞬間とも言えるでしょう。

さらに、1970年ごろには日本のウイスキーが国際的な評価を受け、世界中で注目される存在となっていきました。

日本のウイスキーの定義

さて、海外で高く評価されている日本のウイスキーですが、酒税法に基づくジャパニーズウイスキーの定義は、スコッチやバーボンに比べると非常に緩やかであることが特徴です。

たとえば、スコッチウイスキーの場合、使用する原酒は100%穀類由来でなければなりません。

また、バーボンの場合は51%以上がトウモロコシでなければなりません。

それに対して日本のウイスキーは、10%以上の穀類由来の原酒を使用していれば問題ないとされています。

実際には、10%のモルトウイスキーやグレーンウイスキーを使って、残りの90%を他のスピリッツで作ることも可能なのです。

さらに、日本には熟成年数に関する最低基準がないため、他国から見た場合、原料や熟成年数がウイスキーとして認められないものが日本ではウイスキーとして販売されている実情があります。

このような背景から、2021年2月には日本洋酒酒造組合が自主的に基準を設けることとなりました。

<ウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準>

項目製法品質の要件
原料麦芽(必ず使用)、穀類、日本国内で採取された水
製造糖化、発酵、蒸留は、日本国内の蒸溜所で行う
貯蔵700リットル以下の木製樽で3年以上日本国内で貯蔵
瓶詰め日本国内で容器詰め。充填時のアルコール度数は40度以上

自主的に設定された基準ではありますが、ある程度の定義ができたことは非常に素晴らしいことだと言えるでしょう。

原料、アルコール度数、貯蔵年数などの基準は、ウイスキーの一定の品質を保持するために欠かせない条件です。

しかし、この定義には日本の有名メーカーたちの利権が強く影響しているという側面も見逃してはなりません。

ジャパニーズウイスキーの定義に合致しているからといって美味しいウイスキーとは限らない

モルトウイスキーやグレーンウイスキー以外の成分を混ぜたウイスキーが、ジャパニーズウイスキーとしてのベンチマークを確立したことで、海外からの需要に対する信頼も高まることが期待されます。

日本のウイスキーの人気を背景に、低品質の製品が世界市場でジャパニーズウイスキーとして流通することはなくなることが望まれます。

とはいえ、注意しなければならないのは、この定義に合致したウイスキーだからといって、全てが素晴らしいわけではないという点です。

価格と満足度とバイアス

商品やサービスに対してお金を支払う際に非常に重要な要素の一つが、その価格に対する満足度です。

この満足度は、製品そのものの質に加え、希少性やブランドイメージといった要素も大きく影響します。

これは、いわゆるバイアス(認知の歪み)と呼ばれる現象です。

人々が「良い」と感じる感覚は、実際の品質とは異なる要因によって大きく影響されることが多いのです。

満足度は多様な要因によって決定されるため一概には言えませんが、感じる満足度の中には、品質以外の要素がバイアスとして影響を及ぼしていることが事実です

ジャパニーズウイスキーもこの真実からは逃れられません。

味に対して価格が高すぎるウイスキー

創業以来、ウイスキーの研究と製造に多大な努力を注ぎ、素晴らしい製品を世に送り出してきた大手酒造メーカーのサントリー。

この記事を執筆している現役バーテンダーの私自身も、これまでに数多くの日本のウイスキーを楽しんできました。

その中でも、サントリーが製造するいくつかのウイスキーには非常に大きな敬意を表しています。

しかし、現在販売されているノンエイジ山崎ノンエイジ白州については、その価格に対する満足度があまりにも低く、非常に残念に思っています。

年数が明記されていた頃の製品の中には、実に美味しいもの(白州10年など)が存在していたため、余計にこの現状は悲しいものです。

また、知多に関しても、現在の知多が販売される前に店舗限定で販売された知多蒸溜所のものは興味深い味わいだったため、一般販売を心待ちにしていました。

ところが、一般に発売された製品は全く異なるものとなってしまいました。

山崎、白州、知多とそれぞれの背景を体験してきた私にとって、この変化は本当に寂しいものです。

原酒不足によるメーカーの努力の結果であることは理解していますが、現在販売されているこの味でこの価格では、全くお勧めできるものではありません。

2021年に日本洋酒酒造組合から発表された「ジャパニーズウイスキーの定義」から外れたとしても、海外(スコッチなど)の原酒を使用して真摯にウイスキー造りを行っている他のメーカー(イチローズモルトなど)の製品の方が、価格に対する満足度が高いものがたくさん存在します。

ジャパニーズウイスキーだから、有名メーカーだからという理由に囚われすぎると、本当に美味しいウイスキーに出会う機会を逃してしまうことになります。

買ってはいけないジャパニーズウイスキーまとめ

今回は日本のウイスキーについて、新たに定められたジャパニーズウイスキーの定義にも触れながら解説してきましたが、いかがだったでしょうか。

あまりにも本来のウイスキーからかけ離れた成分や配合で作られたものは、選ぶべきではないウイスキーであることは間違いありません。

そして、しっかりと定義通りに作られた有名メーカーのウイスキーであっても、必ずしも全てが美味しいわけではないということも真実です。

有名であるから、高級であるというような固定観念が人に与えるバイアスは非常に強力です。

そのため、バイアスが存在することを理解した上で、自分の五感を通じてウイスキー選びを行うことで、本当に美味しいウイスキーに出会えるチャンスが広がることでしょう!

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